2006/04/21

あの頃のぼくの話4


■江ぐちの話■

 少し、「江ぐち」の話しをしよう。
江ぐちは見ての通り「江」に平仮名の「ぐち」で表記するのが正しい。
三鷹駅からすぐの雑居ビルの地下にある「中華そば江ぐち」。
ミラクルなラーメン屋である。
ちなみにこの「江ぐち」は小説にもなっているし、泉昌之の漫画にも登場している。
この江ぐちであるが、僕は中学時代から食い続けている。
当時の江ぐちは、この雑居ビルではなく同じ場所にあった路面のボロ家で営業していた。
三鷹市の再開発プロジェクトがあり、三鷹駅前の一帯が立て替えられ「江ぐち」もビルのテナントとなったのだ。その再開発プロジェクトは立ち退く立ち退かない問題で、かなり揉めていたのを覚えている。
市の職員達が、どうしても立ち退きたくない雑貨屋の婆さんが泣くきながら喚くのを押さえつけ、作業員がユンボを使って無理矢理その家屋を壊していく様がテレビのニュースにもなったほどだった。

 そしてこの江ぐちのラーメンなのだが、美味いのか不味いのか、さっぱり分からない。特別美味くはないが、間違いなくここでしか食えない味。
美味いものが食いたいとか、そういうつもりで行っては駄目なのだ、この店は。
江ぐちの店内は、低めのカウンターのみで完全なコの字型のオープンキッチンである。要するに、作っているところが丸見えなのだ。
驚かされるのが、まずドンブリに元ダレを入れる。次に赤いキャップの食卓塩の瓶にどデカイ穴を開けたオヤジ手製(と思われる)容器から、
ドバー!っと勢いよく化学調味料が注入される。
これが江ぐち流、丸見えの隠し味なのだろう。
次に麺を茹でるのだが、江ぐちにはワンタンメンとか玉子そばというメニューもある。これらの具材が全てが同じ釜で茹でられるのだ。
つまり、江ぐちのオヤジはかなり適当に調理をこなしているので、頼んでもいないのにワンタンや玉子の切れ端のようなものが混入されたラーメンが出てくる。たまにワンタンが入っていると「お?ラッキー」となり、玉子の白身が固まった切れ端のようなものが入っていると不愉快になる。
という具合に、少し運だめしというか占いのような要素もある。
麺も他店では味わえないような珍妙な麺である。やけに色のついた歯応えのある麺。例えるなら蕎麦と中華麺の中間というか。
この店のフロントに立ち続け、ずっとラーメンを作り続けているオヤジさんが居るのだが、この人は「江口さん」ではない。では誰が「江口さん」なのか?謎は深まる。稀に裏口で箱に入れた麺を届けるオジさんを見かけるのだが、この人こそ影のオーナーである、という説もある。
スープに関しては、コメントするのもバカバカしい。なので控えたい。
しかし食ってしまう。
そして、なぜか行くたびに店は混んでいる。行列の出来る店と言っても過言では無い。その客の殆どがリピーターであろう。

僕は思う、江ぐちに来る客達は、何かしらの「思い出」を食べに来ているのだろう。
この江ぐちの中華そば、未だにどうしても食べたくなる一品なのであった。

話はちょっと脱線したけれど、それが中学時代の、ほんの少しの出来事だ。

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